【読書記録】銃・病原菌・鉄

なぜヨーロッパ人が南北アメリカ、アフリカ、オーストラリアを征服したのか、なぜその逆にはならなかったかを考察する本。

本のタイトルである「銃・病原菌・鉄」はその直接的な原因を示している。つまり、銃と鉄を持つに至った文明と、病原菌に対する免疫が、ヨーロッパ人を征服者たらしめた。

この本ではさらにより根本的な原因を追究する。

その答えは人種の違いではなく、環境要因によるものである。

ユーラシア大陸は、食物として栽培しやすい野生植物に恵まれていた。それが狩猟採集生活から農耕生活への転換を引き起こした。農耕を前提とした定住生活は人口密度を高め、余剰生産を生み、農耕以外の職業に就く人を生み出した。これが発明と技術の発展を引き起こし、また職業軍人のような職業も生まれた。

ユーラシア大陸はまた、家畜化しやすい野生動物にも恵まれていた。家畜を用いることで生産性は高まり、さらなる人口増加と技術発展が促された。

多種の家畜と高い人口密度という環境は、伝染病の発生機会を増やし、その分、免疫を持った人々を増やした。

さらに、ユーラシア大陸の東西に長い陸地の形は南北に長い陸地と比べて気候条件がお互いに近くなりやすいため、栽培種や家畜の伝搬を速めた。

これらの理由により、ヨーロッパ人は、南北アメリカ、アフリカ、オーストラリアを征服したのである。

途中まで読んで気になっていた、なぜユーラシアの中でヨーロッパの発展が先行しアジアの発展が遅れたのかという点はエピローグの中で解説されていた。

中国は大きな山が少なく、東西方向の大きな河があるという地理的理由でお互いのアクセスが良すぎるため、一つの国家に統一されてしまっていた。そのため一人の支配者の判断により技術が後退してしまうことがあった。

逆にヨーロッパは大きな山が多く、大きな河は少ないため技術は伝搬するが統一国家は誕生しづらいという、地理的障壁を持っていた。そのため仮にどこかの国家で技術が後退したとしてもヨーロッパ全体で技術が後退するということはなかった。これにより、ヨーロッパが近代以降の技術をリードすることとなった。

このような答えを見つけるために、考古学、言語学の研究成果を動員し、また炭素の同位体からの年代解析のような理系の研究成果も活かされている。

あらゆる知識をベースに人類史を解き明かす様子は、知識欲を掻き立てられる。

本の結論は序盤の章で出ていて、その後の章で詳細を出していく構成なので、上下巻に分かれたぶ厚い本のわりに読みやすい。

この本で得られる観点を持つと、人類史、世界史、宗教史も見え方が違ってくるだろう。

地理、気候や進化学にも話が及んでいて広い範囲の教養を必要とする本でもあり、広い範囲の教養のベースにもなる本である。

インターネットにより、情報へのアクセスや他者とのコミュニケーションが容易になったことは、技術発展をさらに加速させるだろう。

また移動手段も高度化したことで感染症の拡大スピードもあがっていることが、近年のコロナ事情からよくわかる。

過去への理解が未来への洞察も与えてくれる。

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